数年前、年老いた母が突然入院したときのこと、私は、一日でも長生きして欲しいと願ったんです。私にできることは何かな、といろいろ考えました。毎日、仕事があるのでお見舞いにも行けないし、母が欲しいものを買っていきたいと思っても、寝たきりだし。
その時、「私は、長生きして欲しい、元気になって欲しい。欲しい欲しいと、欲なことばかり願っていたなー」という自分の欲の心に気づいたんです。そうしたら、お見舞いに行くことや、何かを買ってあげることも大切なことですが、私にでもできる親孝行があるはずと思い、そのことを一生懸命考えました。
そして、『今、母の命がある!母の命がある!母が安定しているから病院から電話もかかって来ない。今、母の命があることに感謝しよう!』と思ったんです。「今日も、年老いた母の命を頂いています!母の命に感謝申し上げます!」この言葉が、私にできる「親孝行」だと思うことができました。
皆さん、どうですか?
ー そんな親孝行できる言葉があるんですね。今まで、何か親にしてあげることが親孝行と思っていました。ー
それもいいと思いますよ。でも、遠くに親がいたり、経済的に無理だったり、『親孝行できない』と悔みたくなりますよね。子供が悔むと、親は悲しいですよ。親を悲しませたら、親不孝になりますよ。時間もお金もいらない、誰にでもできる親に喜んでもらえる言葉が、『親の命に感謝する言葉』と思うんです。
この言葉に気づいて以来、親孝行は何もできませんでしたけど、毎日毎日「今日も、年老いた母の命を頂いております、ありがとうございます」と言っただけで、涙が出て来ますよ。
このありがたい言葉を言えたことは、御先祖様のお蔭様だと思います。
母の温かい思い出
今でも忘れられない母の思い出があるんです。何でもないことなんですけどね。
私が高校生のとき、夜勉強していたら、母がカンロ飴を三つ「はい」と言って持って来てくれたんですよ。たった飴三つなんですけどね。どこかに連れて行ってもらったとか、買ってもらったことはあまり思い出しませんが、カンロ飴をもらって嬉しかったことは、ずっと心の中に、温かく残っているんですよ。
そんな温かい思い出が大事みたいですね。
「お母さんのことで、どんなことを思い出しますか?」と、皆さんによくお尋ねするんですが…。
お母さんの温かさを思い出すと、氷がじわーっと溶けるように変わってきますよ。
私も母から怒られたし、昔は田んぼが忙しくて、かまってもらってないですが、「あのときの飴、嬉しかったー」という母の温かい思い出のお蔭で、今の良きご縁を頂いているのだと思います。
皆さんも温かい思い出がありますよね。そのために法座のご縁を頂いてくださいね。人様のお話を聞いていたら、必ず「ハッ」と思い出すことがありますよ。一つ思い出したら、人生が変わりますよ。